身寄りのない人が死亡。部屋の荷物はどうなる?【弁護士が解説】


弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士保有資格 / 弁護士・税理士・MBA

 

  • 亡くなった人に相続人がいないとき、賃貸人はどうすればいいですか?
  • 相続人がいない場合、遺品を処分しても問題ありませんか?
  • 身寄りがない人が賃借人のとき、トラブル防止のためにどうすればいいですか?

亡くなった人に相続人がいなくても、その人の財産を勝手に処分してはいけません。

相続人がいない人の財産を管理処分してもらいたい場合には、相続財産管理人の選任の申立てをする必要があります。

このページでは、遺品を処分する方法やトラブル防止のポイントを解説しますので、参考にされてください。

 

亡くなった人に相続人がいないときのアパートの遺品

アパートの一室を貸していた人がある日突然亡くなった場合、賃貸人は部屋に残された遺物をどのように取り扱えばよいかという問題に直面します。

亡くなった人に相続人がいれば、相続人に財産の処分をお願いすることができます。

しかしながら、相続人がいない場合には、誰に処分をお願いすればよいのでしょうか。

この点、相続人がいない場合には、財産を処分しても困る人はいないのだから、賃貸人が勝手に財産の処分をしても問題はないのではないかと思うかもしれません。

しかしながら、亡くなった人に相続人がいなくても、その人の財産を勝手に処分してはいけません。

相続人がいない人の財産を管理処分してもらいたい場合には、相続財産管理人の選任の申立てをする必要があります。

この申立てが認められるためには、申立人が法律上の利害関係人であることを要しますが、賃貸人は賃借人の債権者にあたるため家庭裁判所に対して相続財産管理人の選任を請求することが可能です。

 

 

相続財産管理人とは

相続財産管理人とは、亡くなった方(「被相続人」といいます。)に相続人がいない場合や、相続人がいるかどうか不明な場合などに、遺産の調査や換価(遺産を売却などしてお金に変えること)等を行う人のことをいいます。

相続財産管理人は、家庭裁判所の審判によって選任されます。

相続財産管理人は、遺産の調査等を行うため、法的知識が必要となるので通常、弁護士などの専門職が選任されることが多いです。

 

 

相続財産管理人は遺品を処分できる?

相続財産管理人の権限は、原則として、保存行為及び物や権利の性質を変えない範囲で行われる利用・改良行為に限られます(民法918条3項、同28条、同103条)。

この権限内の行為を例示すると、以下のようなものが考えられます。

相続財産管理人の権限内行為の例

  1. ① 代金支払債務の履行、受領(ただし、債権発生時期、金額、債権の存在を証する資料の有無等にもよる)
  2. ② 事務管理費用の支払
  3. ③ 掃除などの作業依頼
  4. ④ 社会通念上許容される樹木の剪定、建物の補修等
  5. ⑤ 税金の納付

したがって、滞納している家賃があれば、相続財産管理人が賃貸人に支払うことが可能と考えられます。

 

 

アパートの解約はできる?

アパートの解約は、上記の保存行為や利用・改良行為とはいえず、処分行為であり、相続財産管理人の権限外行為になると考えられます。

このような権限外行為について、相続財産管理人は、家裁の許可を得ることで、処分行為をすることが可能です(民法918条3項、同28条)。

なお、権限外行為を例示すると、以下のものが考えられます。

相続財産管理人の権限外行為の例

  1. ① 契約解除
  2. ② 不動産の売却
  3. ③ 動産の売却・放棄・自動車の売却・廃車手続
  4. ④ 建物取壊し
  5. ⑤ 訴訟外の和解、示談
  6. ⑥ 訴訟行為

したがって、部屋の中の売却できそうな価値がある物があれば、それを売却してお金に変えて、家賃の支払いに当てることが可能です。

また、価値がない(売れそうにない)物については廃棄処分が可能です。

さらに、賃貸借契約についても、相続財産管理人がいれば、敷金等を精算して合意解除するなどして契約解除が可能となります。

 

 

身寄りがない人が亡くなったときの問題点

上記のように、相続財産管理人がいれば、理屈の上では問題ないように思えます。

しかし、実務上、以下のような問題があるため注意が必要です。

①相続人の有無の判断は簡単ではない

賃貸人からは身寄りがない、天涯孤独だったかのように見えても、実は親族(相続人)がいるケースが多く見受けられます。

したがって、いきなり、家裁に相続財産管理人の選任を申し立てるのでなく、まずは相続人の有無を調査する必要があります。

なお、法定相続人の範囲についてはこちらのページを御覧ください。

しかし、相続人の調査は、被相続人(亡くなった方)の出生から死亡までの戸籍を調査する必要があり、複雑で面倒な作業です。

そのため素人の方では調査が困難となる可能性があります。

 

②相続財産管理人の選任の申立てが面倒

相続財産管理人を選任してもらうためには、家裁に審判の申立てをしなければなりません。

その申立てのためには、申立書に添付する、たくさんの書類が必要となります。

必要書類:標準的な申立添付書類
  1. 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
  2. 被相続人の父母の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
  3. 被相続人の子(及びその代襲者)で死亡している方がいらっしゃる場合、その子(及びその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
  4. 被相続人の直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
  5. 被相続人の兄弟姉妹で死亡している方がいらっしゃる場合、その兄弟姉妹の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
  6. 代襲者としてのおいめいで死亡している方がいらっしゃる場合、そのおい又はめいの死亡の記載がある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
  7. 被相続人の住民票除票又は戸籍附票
  8. 財産を証する資料(不動産登記事項証明書(未登記の場合は固定資産評価証明書)、預貯金及び有価証券の残高が分かる書類(通帳写し、残高証明書等)等)
  9. 利害関係を証する資料(戸籍謄本(全部事項証明書)、賃貸借契約書、金銭消費貸借契約書写し等)
  10. 財産管理人の候補者がある場合にはその住民票又は戸籍附票

これだけたくさんの書類を準備するのは素人の方には大変だと思われます。

 

③裁判所に多額の現金を収める可能性

相続財産管理人の選任を申し立てる場合、収入印紙や官報公告費用が必要となります。

また、これとは別に、予納金が必要となります。

この予納金は、相続財産管理人の経費や報酬に当たるための費用となります。

すなわち、相続財産管理人には、通常、弁護士などの専門職が選任されますが、これらの専門職には、職務を遂行することの見返りとして、報酬が必要となるのです。

具体的な金額は事案の内容に応じて家裁が決定するので一概には言えませんが、安くても概ね20万円程度、事案によっては100万円程度になる可能性もあります。

このような高額な現金を賃貸人等の利害関係者が負担するのは難しい場合が多いと思われます。

十分な遺産がある事案では、予納金が返ってくることも考えられますが、そのような状況でなければ申し立てる人が費用を負担することとなるため、事前によく検討する必要があります。

 

 

まとめ

以上のように、亡くなった人に相続人がいないという場合、相続財産管理人の選任という方法が考えられますが、これには面倒な手続きが必要となります。

また、賃貸人等の利害関係者が費用を負担する可能性があるため、慎重に検討する必要があります。

さらに、相続財産管理人の申立て手続きは法律上の利害関係人に限られるため、自分がその利害関係人にあたるかの判断も必要となるでしょう。

そのため、できれば専門家にご相談の上、助言をもらいながら検討していくことをお勧めしています。

ただ、相続財産管理人の実務については、弁護士でもあまり知らない人も多いので、まずは相続問題に精通した弁護士を探すことが重要となります。

当事務所の相続対策チームは、相続に注力する弁護士や税理士のみで構成される専門チームです。

相続問題でお困りの方は当事務所までお気軽にご相談ください。

当事務所のご相談の流れについてはこちらのページを御覧ください。

あわせて読みたい
ご相談の流れ

 

関連Q&A


[ 相続Q&A一覧に戻る ]

なぜ遺産相続のトラブルは弁護士に依頼すべき?

続きを読む

まずはご相談ください
初回相談無料