事案の概要

電話する女性携帯電話を購入するとき、大幅な割引の代償として、契約後2年以内に解約したとき、解約金が発生するという話を聞かれたことがある方は多いのではないでしょうか?

いわゆる「2年縛り」というものですが、契約を途中で解約する際、au、ソフトバンク、ドコモの携帯大手三社は、一律で9975円の解約金を支払わなければならないという契約条項になっています。

この条項の適法性に関して、先日、最高裁で注目の判断が出されましたので、ご紹介いたします。
訴えていたのは、弁護士らでつくるNPO法人「京都消費者契約ネットワーク」という団体で、上記3社に対して、条項の使用差し止めを求め、三つの訴訟を京都地裁に起こしました。
3つ訴訟のうち、2つの一審判決は「条項は有効」としました。
しかし、auに対する一審判決は、一部の利用者の解約金について「事業者に生じる損害を上回る額となり、無効」と判断し、解約金の返還を命じました。そのため社会的にも大きな注目を浴びました。
ところが、二審(大阪高裁)は、3つの訴訟のいずれも「解約金は合理的な額で、条項は有効」などと判断しました。
そこで、ネットワーク側が上告していたのですが、最高裁は、「条項は有効」とする判断を示し、結局はいずれの訴えも退けました。

なぜ、このようなことが問題となったのでしょうか。

損害賠償額の予定

まず、2年縛りは、「損害賠償額の予定」という性質をもっています。

損害賠償額の予定とは、当事者があらかじめ債務不履行の場合に賠償すべき損害賠償額を定めることをいいます。すなわち、もし、契約の相手が債務をきちんと履行しなかった場合、当方に生じた損害の賠償を求めるには、「損害額」を立証しなければなりません。ところが、この損害額がいくらかというのは、正確に算定できないことも多々あります。そこで、後々賠償額について、争いとなるのを避けるために、賠償額を決めておくのです。

例えば、A社がB社に車を自動車を売る場合、「売主は、◯年◯月◯日に自動車を引き渡さない場合、1日1万円の割合で違約金を支払う」などです。
違約金は、さまざまな意味で使われていますが、賠償額の予定と推定されます(民法420条3項)。
そして、たとえB社の現実の損害が1万円に満たなかったとしても、裁判所は、賠償額を1日1万円と認定しなければりません(民法420条1項)。

【参考 民法第420条】

1 当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる。この場合において、裁判所は、その額を増減することができない。

2 賠償額の予定は、履行の請求又は解除権の行使を妨げない。

3 違約金は、賠償額の予定と推定する。

このような民法の規定からすれば、2年縛りに関しても、有効なように思えます。
しかし、先程の例は、A社とB社という事業者同士の取引です。

取引の当事者が対等な立場にある場合、契約自由の原則から、法律でとやかく指図せず、当事者に任せればよいのですが、

例えば、一方が企業、他方が消費者の場合、契約自由の原則を貫くと、問題が生ずる場合があります。

すなわち、消費者が消費生活を営む上で必要な情報,知識,交渉力等については,消費者と事業者の間には大きな格差が存在しています。そのため、消費者の自由な意思形成がなされないままに契約が締結されてしまい、消費者の利益が不当に害されることがあるのです。

そこで、消費者利益を確保するために、消費者契約法という法律が制定されており、消費者と事業者との間で締結される契約についてはこの法律が適用されます。

消費者契約法の問題点

携帯の2年縛りの問題で、ネットワーク側が主張したのは、解約金条項が
「平均的損害を超える違約金を定めてはいけない」とする消費者契約法9条1号に反するというもの、
また、「消費者の利益を一方的・不当に阻害してはいけない」とする消費者契約法10条に反するというものです。

【参考 消費者契約法】

第9条(消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等の無効)

次の各号に掲げる消費者契約の条項は、当該各号に定める部分について、無効とする。

①当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの 当該超える部分

第10条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)

民法、商法(明治三十二年法律第四十八号)その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。

最高裁は、結論として、携帯の2年縛りは、消費者契約法9条にも10条にも違反しないと判断しました。
携帯の2年縛りは、解約金の額も9975円と少なく、また、消費者は割引料金での役務の提供を受けていること、契約締結の際、解約金について十分説明を受けていることなどから、消費者契約法に違反しないと判断したのではないかと思われます。

社会生活において消費者契約法が問題となるケース

一般市民の方の社会生活において、皆様が当然と思われていることが、実は消費者契約法に違反しているというケースはたくさんあります。
以下、消費者契約法が問題となったケースについてご紹介します。

【消費者契約法9条 「平均的な損害」の有無が問題となった事例】

消費者契約法9条1号の「平均的な損害」とは、当該消費者契約の当事者たる個々の事業者に生じる損害の額について、契約の類型ごとに合理的な算出根拠に基づき算定された平均値をいい、具体的には、解除の事由、時期等により同一の区分に分類される複数の同種の契約の解除に伴い、当事者に生じる損害の額の平均値を意味すると解されます。

具体例としては、次の事案で問題となっています。

①大学への学納金等(最高裁判決平成 18 年 11 月 27 日)

【事案の概要】 大学への入学手続完了後に入学を辞退した者が、大学に対して納付済み金員の返還を求めた事案
【契約の内容】 入学金、授業料等(授業料、施設設備資金、実験実習料)、後援会費※ 入学者納入金はいかなる理由があっても返還しない旨の特約有り
【判決の概要】 入学金と後援会費、年度開始後の授業料等については大学の返還義務はないとしたが、年度開始前の授業料等については返還義務を認めた。

 

② LPガス消費設備等貸与契約(東京高裁判決平成 20 年 12 月 17 日)

【事案の概要】 消費者が取得した建物のLPガス消費設備等(事業者があらかじめ設置)の貸与契約を中途解約したところ、事業者側が補償金支払を求めた事案
【契約の内容】 LPガス消費設備等貸与契約
【判決の概要】 設置費用、撤去費用、事務処理費用について、平均的な損害と認めず、返還義務を認めた。

③宿泊契約(東京地裁判決平成 23 年 11 月 27 日)

【事案の概要】
大学のラグビーサークルが旅館の宿泊及びグラウンド利用等の予約を宿
泊前日に取り消したところ、その際に支払った取消料について返還を求めた事案
【契約の内容】 宿泊、食事及びグラウンド施設の利用等
【判決の概要】 宿泊費のうちのクリーニング代、アメニティ代及び準備費用等について、返還義務を認めた。
その他、いろいろな業界で問題になっている条項です。

【消費者契約法10条「消費者の利益を一方的に害するもの」か否かが問題となった事案】

消費者契約法10条の「消費者の利益を一方的に害するもの」に該当するか否かは、消費者契約法の趣旨、目的に照らし、当該条項の性質、契約が成立するに至った経緯、消費者と事業者との間に存する情報の質及び量並びに交渉力の格差その他諸般の事情を考慮して判断されると解されます。

具体例としては、次の事案で違法と判断されています。
・賃借人に自然損耗等の原状回復義務を負担させる特約(大阪高裁平成16年12月17日判決)
・入学辞退者に対する入学金不返還特約(京都地裁判決平成17年3月26日判決)。
・敷引特約:契約終了時に敷金から敷引金を控除する特約(神戸地裁平成17年7月14日判決)

・生命保険約款の無催告失効条項:保険契約者が保険料支払義務を履行しない場合、保険会社が保険契約を失効させるのに催告等をも必要としない特約(東京高裁平成21年9月30日判決)

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